『臥龍梅』 蔵便り   平成十六年水無月

拝啓 さわやかな初夏の季節となりましたが 皆様いかがお過ごしでしょうか。当地、清水の興津川では全国でも最も早く先月の20日に鮎釣りが解禁となりました。釣り人たちがひざ上まで水にひたって竿を垂れ、恒例の初夏の風物詩をかもしております。

さて、今月は滋賀県の近江八幡市に田植えに行ったときのことをご報告いたします。5月19日の朝5時に家を出発して静岡で始発の新幹線に乗り、米原で在来線に乗り換えました。列車はしだいに混んできて、近江八幡市の駅に降りるときには大勢の地元の高校生といっしょでした。8時半過ぎに「大中の湖営農センター」に着くと、契約農家の藤本さんは既に圃場(ほじょう 田んぼのことをこう呼ぶそうです)に出て田植えを始めているとのこと。早速現地に案内してもらいたいところをしばし待たされます短かん渡船の苗
何かと思っていたら、農業改良普及センターの中橋さんという職員がわざわざ「短かん渡船 たんかんわたりぶね」について説明しに来てくれました。まだ二十代の若者が50年以上昔の幻の酒造好適米の種籾を見つけてくれたのです。種籾は既に酒米部会長の沢さんの手で播種(はしゅ)されて苗に育っているそうで、後で見せてもらいました。それから車で圃場に行ってみると、藤本さんが八条植えの乗用型田植え機に乗って片道120メートルの広大な田んぼを往復しておりました。路上では藤本さんの奥さんと娘さんが育苗箱をトラックから降ろしてせっせと田んぼの脇に並べております。何事も経験と、小生も田植え機を運転させてもらいました。手植えしていた頃だと、片道二条ずつ植えていって、往復240メートル、四条植えるのに大人一人で半日がかりだったそうです。それが田植え機では片道八条、往復十六条植えるのに15分もかかるかどうか。農業技術の進歩はたいしたものです。とは言うものの、話を聞くと米作りはまだまだ大変な仕事のようです。田植えの前にビニールハウスで20日から25日がかりで育苗するのですが、その間、水と温度の管理に目が離せないこと。去年の株の残っている田んぼを何度も繰り返し耕して肥料を撒ける状態にまですること。代(しろ)かきと言って、田んぼに水を入れて土を細かくし、表面を平らにならして田植えができる状態にする作業に手間がかかること。苦労は尽きないようです。こうして丹精して育てられた稲が半年後に実を結んで蔵に入荷してくるのです。米作りに携わる皆さんの努力に報いるためにも美味しい酒を造ろう。酒造りに対する気概を新たにして近江八幡市を後にいたしました。 

初夏の候、皆々様ますますお元気で。                           敬具
平成16年6月吉日 

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